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~風野又三郎~「九月七日」-2 お気に入りの作品とともに(著作権切れ)

「僕たちが世界中になくてもいいってどう云うんだい。箇条《かじょう》を立てて云ってごらん。そら。」
 耕一は試験のようだしつまらないことになったと思って大へん口惜しかったのですが仕方なくしばらく考えてから答えました。
「汝《うな》などぁ悪戯ばりさな。傘ぶっ壊《か》したり。」
「それから? それから?」又三郎は面白そうに一足進んで云いました。
「それがら、樹《き》折ったり転覆《おっけあ》したりさな。」
「それから? それから、どうだい。」
「それがら、稲《いね》も倒《たお》さな。」
「それから? あとはどうだい。」
「家もぶっ壊《か》さな。」
「それから? それから? あとはどうだい。」
「砂も飛ばさな。」
「それから? あとは? それから? あとはどうだい。」
「シャッポも飛ばさな。」
「それから? それから? あとは? あとはどうだい。」
「それがら、うう、電信ばしらも倒さな。」
「それから? それから? それから?」
「それがら、塔《とう》も倒さな。」
「アアハハハ、塔は家のうちだい、どうだいまだあるかい。それから? それから?」
「それがら、うう、それがら、」耕一はつまってしまいました。大抵《たいてい》もう云ってしまったのですからいくら考えてももう出ませんでした。
 又三郎はいよいよ面白そうに指を一本立てながら
「それから? それから? ええ? それから。」と云うのでした。耕一は顔を赤くしてしばらく考えてからやっと答えました。
「それがら、風車《かざぐるま》もぶっ壊《か》さな。」
 すると又三郎は今度こそはまるで飛びあがって笑ってしまいました。笑って笑って笑いました。マントも一緒にひらひら波を立てました。
「そうらごらん、とうとう風車などを云っちゃった。風車なら僕を悪く思っちゃいないんだよ。勿論《もちろん》時々壊すこともあるけれども廻《まわ》してやるときの方がずうっと多いんだ。風車ならちっとも僕を悪く思っちゃいないんだ。うそと思ったら聴《き》いてごらん。お前たちはまるで勝手だねえ、僕たちがちっとばっかしいたずらすることは大業《おおぎょう》に悪口を云っていいとこはちっとも見ないんだ。それに第一お前のさっきからの数えようがあんまりおかしいや。うう、ううてばかりいたんだろう。おしまいはとうとう風車なんか数えちゃった。ああおかしい。」
 又三郎は又|泪《なみだ》の出るほど笑いました。
 耕一もさっきからあんまり困ったために怒っていたのもだんだん忘れて来ました。そしてつい又三郎と一所にわらいだしてしまったのです。さあ又三郎のよろこんだこと俄かにしゃべりはじめました。