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~銀河鉄道の夜~「八、鳥を捕る人」-3 お気に入りの作品とともに(著作権切れ)

「いいえ、どういたしまして。どうです、今年の渡《わた》り鳥《どり》の景気は。」
「いや、すてきなもんですよ。一昨日《おととい》の第二限ころなんか、なぜ燈台の灯《ひ》を、規則以外に間〔一字分空白〕させるかって、あっちからもこっちからも、電話で故障が来ましたが、なあに、こっちがやるんじゃなくて、渡り鳥どもが、まっ黒にかたまって、あかしの前を通るのですから仕方ありませんや。わたしぁ、べらぼうめ、そんな苦情は、おれのとこへ持って来たって仕方がねえや、ばさばさのマントを着て脚と口との途方《とほう》もなく細い大将へやれって、斯《こ》う云ってやりましたがね、はっは。」
 すすきがなくなったために、向うの野原から、ぱっとあかりが射《さ》して来ました。
「鷺の方はなぜ手数なんですか。」カムパネルラは、さっきから、訊こうと思っていたのです。
「それはね、鷺を喰べるには、」鳥捕りは、こっちに向き直りました。
「天の川の水あかりに、十日もつるして置くかね、そうでなけぁ、砂に三四日うずめなけぁいけないんだ。そうすると、水銀がみんな蒸発して、喰べられるようになるよ。」
「こいつは鳥じゃない。ただのお菓子でしょう。」やっぱりおなじことを考えていたとみえて、カムパネルラが、思い切ったというように、尋《たず》ねました。鳥捕りは、何か大へんあわてた風で、
「そうそう、ここで降りなけぁ。」と云いながら、立って荷物をとったと思うと、もう見えなくなっていました。
「どこへ行ったんだろう。」
 二人は顔を見合せましたら、燈台守は、にやにや笑って、少し伸《の》びあがるようにしながら、二人の横の窓の外をのぞきました。二人もそっちを見ましたら、たったいまの鳥捕りが、黄いろと青じろの、うつくしい燐光《りんこう》を出す、いちめんのかわらははこぐさの上に立って、まじめな顔をして両手をひろげて、じっとそらを見ていたのです。